福井・三国温泉の「望洋楼」といえば、冬の越前ガニの名宿として全国に名を馳せる老舗旅館。
蟹のシーズンには予約困難になるほどの人気ですが、今回の私たちの目的は温泉と建築そのものを体験すること。
賑わいの冬を避け、あえて静かな10月に訪れました。
秋の日本海を前に、波音に包まれながら過ごす時間――その静けさこそ、この宿の真価が見えてくる季節です。
🏛 建築と再生 ― 小規模ラグジュアリー旅館としての新生「望洋楼」
明治創業の老舗「望洋楼」は、2021年の大改装を経て、わずか7室の小規模ラグジュアリー旅館として再生。
設計は建築家 川添善行氏(空間構想)、内装デザインは SH ARCHITECT & DESIGN 原田周子氏。
断崖に面した日本海を真正面に望む立地で、「素材に嘘をつかず、自然と共鳴する空間」をテーマに設計された建物は、
宿というよりひとつの建築作品です。
コンクリートとガラスが織りなす外観、内部に使われた石・木・ファブリックの質感、
塩害に耐えるための断熱構造――どこを切り取っても、設計へのこだわりが息づいています。
華美な装飾ではなく、**“余白の美”と“静けさのデザイン”**がこの宿の本質です。

🚗 チェックイン ― 海の宿で迎えられる午後の光
今回の旅は、山中温泉「花紫」と「望洋楼」をめぐる北陸の《美意識高い系》温泉宿のハシゴ旅。
三時のチェックインを目指して出発し、寄り道を楽しみながら三国へ。
15分ほど早く到着しましたが、駐車場に入るとすぐに係の方が出迎えてくださいました。
車の誘導から荷物の運搬まで丁寧な対応で、老舗らしい落ち着きが感じられます。
目の前には、想像以上に近い距離で広がる日本海。
チェックインはエントランス付近の個室で行われ、こちらの部屋が夕食・朝食の個室食事処にもなります。
午後の光が差し込む静かな空間で、お茶と和菓子をいただきながらチェックインのひととき。
他の宿泊客はまだ到着しておらず、波音だけが聞こえる、ゆるやかな午後でした。




🌊 客室205号室 ― 海と一体になる設計
案内されたのは「205号室」。
玄関を上がると、柔らかな絨毯が足を包み、廊下を抜けた瞬間、全面ガラス越しに広がる日本海。
まるで海の上に浮かんでいるかのような感覚に息をのむほど、窓の配置と高さが計算されています。


部屋の中央には、石・木・カーペットが段差で切り替わる床構成。
コの字型の低いソファに身を沈めると、視線が海面とほぼ同じ高さになり、
まるで波と対話しているような時間が流れます。


ソファの座り心地は抜群。
ただ、右手の道路からわずかに部屋の内部が見えるため、その部分だけシェードを下ろして滞在しました。
この日は風が強く、波が荒れていて、ベランダに出るのが少し怖いほど。
それでも、荒れた日本海の迫力を真正面に感じる体験は、この宿ならではの醍醐味です。


💦 温泉 ― 源泉掛け流しの贅沢と肌への実感
客室には三国温泉の源泉掛け流し風呂が備わっています。
湯船は2人でも十分な広さがあり、湯温は体感で41〜42℃。
最初は少し熱めでしたが、水を足して温度を調整するとちょうど良く、
湯上がり後の肌はつるりと柔らか。
前日に宿泊した花紫と比べても、望洋楼の湯はより肌がすべすべになる感覚がありました。



窓を開けると、波の音がそのまま届き、まるで露天風呂のよう。
お風呂はリビングとも扉でつながっており、私はソファでくつろぎながら何度も湯船を行き来しました。
夜には波の音と照明の陰影が重なり、まるで舞台のような静謐な時間が流れます。

🪞 洗面とシャワールーム ― 静謐と機能美
洗面エリアは、間接照明の光が壁と鏡を柔らかく照らし出す、モダンで静かなデザイン。
余白を生かした配置で、清潔感と落ち着きが同居しています。
ブラウンタイルのシャワールームは木桶と椅子の組み合わせが美しく、
素材の温かみと実用性を兼ね備えた設計。
「見た目」だけでなく「使うこと」への配慮が感じられます。






☕ 設備と惜しい点 ― 細部の課金にやや違和感
ベッド脇のデスクや照明、ティーセットの配置は完璧で、統一感のあるデザインが印象的。
木・金属・ファブリックなど異なる素材が不思議と一体化しており、
全体として調和のとれた美しいインテリアに仕上がっています。




少し気になったのは、細かな課金システム。
冷蔵庫に最初から入っているものは宿泊料金に含まれています。しかし冷蔵庫の中のセレクションのうち、私たちは水とビールしか消費しないので、お茶やオレンジジュースは不要、飲みませんし手もつけません。それらを消費せずに、水を追加注文すると有料。「うーん…、なぜかしら??」。
ちなみに、水の追加が1本300円、コーヒーパックやアメニティの追加もそれぞれ数百円ずつという小銭。
このクラスの料金設定の宿の宿泊者は、おそらく、数百円単位の小銭を気にする層ではないはず。
宿泊料金に最初から数千円上乗せしておいて、飲料水やコーヒーなどは自由に再オーダーできる方が気持ちが良いのにな、と感じました。
リクエストするたびに「〜百円です。」と言われて、その度に、なんだか現実世界に引き戻されてしまい、苦笑せずにはいられませんでした。
周囲にコンビニなどは無いですし、温泉に入ると水分補給は必須。温泉では飲料水の消費量が爆増します。
これから訪れる方は、お水を持参すると安心かもしれません(苦笑)。
🌅 翌朝 ― 灰色の日本海と、色が戻る瞬間
翌朝、目を覚ましてシェードを上げた瞬間、
私は一瞬「目の調子が悪くなったのか?」と錯覚しました。
目の前に広がる日本海が、まるでモノクロ写真のような灰色の海だったのです。
思わず目をこすり、もう一度見直しましたが、やはり一面グレー。
太陽の光がないだけで、海はここまで無彩色に見えるのかと驚かされました。
やがて朝食の時間になるころ、太陽が雲の隙間から顔を出し、
波の表情に少しずつ青が戻っていきました。
🌙 滞在を終えて ― 波音に包まれる静寂の時間
たまたま平日ということもあり、他の宿泊客も少なく、滞在中は驚くほど静か。
波と風の音だけが響く空間は、まさに「何もしない贅沢」。
建築、自然、温泉、そのすべてが調和し、心の芯が静まるような時間でした。
細かな改善の余地こそあれど、ここは間違いなく**“建築を体験する宿”**。
越前ガニの季節とはまた違う、静寂の望洋楼。
旅の余韻を残す美しい時間が、ここにはあります。
✍️ 総評
越前ガニの名宿「望洋楼」は、冬の賑わいだけでは語り尽くせない魅力を秘めた宿。
海と建築、光と静けさ――それらが交差する“時間の宿”です。
豪華さよりも、本質的な贅沢を求める旅人に、心からおすすめしたい場所でした。
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